日本心理学会第84回大会にて,ポジティブ心理学研究会関連で2つのシンポジウムが採択されました。
今年の2月にコロナウイルス感染拡大防止のために研究会を中止いたしましたが,登壇予定であった先生方にもご協力いただき,ご発表いただけることになりました。
コロナウイルス感染拡大により,暗く,そして不安な日々が続いておりますが,そのような中でも一筋の光をみつけるのがポジティブ心理学(ポジティブ心理学研究者)の使命のように感じております。
本シンポジウムがみなさまの研究,臨床,あるいは実生活に活かせるように,企画者として努めてまいります。
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シンポジウム①:ダイナミックなポジティブ心理学
企画代表:金子迪大 先生 京都大学・日本学術振興会
発表者1:中川威 先生 国立長寿医療研究センター・日本学術振興会
発表者2:古村健太郎 先生 弘前大学
発表者3:高橋英之 先生 大阪大学
指定討論者:島井哲志 先生 関西福祉科学大学
各発表者
発表者1:中川威 先生 国立長寿医療研究センター・日本学術振興会
感情は時間経過につれて移ろいゆく。感情科学では,感情を持続時間によって気分(mood)と情動(emotion)に区別する定義がある。同様に,発達科学では,感情の加齢を,マクロな時間経過に伴う長期的変化と,ミクロな時間経過に伴う短期的変動に区別する枠組みが提案されている。本発表では,成人期を対象に,年単位および日単位で収集した縦断データを用いて,感情の時間的ダイナミクスを記述した結果を報告する。
発表者2:古村健太郎 先生 弘前大学
成人期において,恋人はアタッチメント対象となり,安全な避難場所や安全基地として機能しやすい。しかし,恋愛関係は崩壊した場合,それまでアタッチメント対象として機能してきた恋人を頼れなくなる。この場合,元恋人をアタッチメント対象として頼らなくなるのは簡単なのであろうか。本発表では,恋愛関係崩壊直後の人々を対象とした縦断調査の結果から,関係崩壊後の元恋人へのアタッチメント欲求の変化について議論する。
発表者3:高橋英之 先生 大阪大学
人生の幸せの形成において,自らの人生を一つの大きな物語として顧みることが重要な意味をもつことが最近の研究から示唆されている.一方で,物語の想像を自発的に行うことは容易ではない.本研究では,物語の想像を支援するテクノロジーとして現在我々が開発している人工生命群のシミュレーションを紹介し,その人工生命群の振る舞いを観察した人間が,その動きから自発的に想起する物語の内容について報告したい。
企画趣旨
我々は時として世界が安定したものだと考えてしまうが,新型コロナウイルスのパンデミックに明らかなように世界は常に移ろい,変化する。そのような危機の中で人々は環境の変化に振り回されるだけでなく、危機に対処し、新たな生き方を探し歩んでいく。ポジティブ心理学においても,成立当初は安定的なポジティブさに着目した研究が多かったが,20年が経過した現在では環境や人々の変化を考慮したダイナミックな研究が盛んに行われている。。本シンポジウムではそのようなポジティブ心理学のダイナミクスについて紹介する。具体的には,①感情の時間的変化,②恋愛関係崩壊時のアタッチメント欲求の変化,③幸せを構築するために不可欠な物語の創発プロセスについて,最新の研究を紹介する。これにより、本邦においてダイナミックなポジティブ心理学研究が進展する契機となれば幸いである。
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シンポジウム②:ポジティブ心理学における多様な感情経験
企画代表:菅原大地 先生 筑波大学
企画者:金子迪大 先生 京都大学・日本学術振興会
発表者1:武藤世良 先生 お茶の水女子大学
発表者2:高野了太 先生 京都大学・日本学術振興会
発表者3:藤野正寛 先生 京都大学
指定討論者:一言英文 先生 関西学院大学
各発表者
発表者1:武藤世良 先生 お茶の水女子大学
発表者は,敬愛や心酔,畏怖,感心,驚嘆など尊敬に関わる感情を尊敬関連感情と呼び研究してきた(武藤,2018)。これらの感情の多くは,ポジティブな主観的情感として経験され,ポジティブな機能も検討されている。発表者は,ポジティブ心理学に「尊敬」を積極的に位置づけることを試みたい。本発表では,尊敬関連感情の特徴を整理し,尊敬関連感情がこれからのポジティブ心理学に果たしうる役割を試論する。
発表者2:高野了太 先生 京都大学・日本学術振興会
畏敬の念は自己の存在をちっぽけに感じさせることが示されてきた。本話題提供では,畏敬が自己を手放す可能性について,ラバーハンド実験を用いた研究を紹介する。さらに,その根底にある神経メカニズムについて,畏敬を感じた際の脳内機構,および安静時脳活動の個人差の観点から調べた研究についても解説し,畏敬の念がどのようにして自己概念と相互作用するのかについて議論を深めたい。
発表者3:藤野正寛 先生 京都大学
マインドフルネスとは,次々と生じている今この瞬間の感覚・感情・思考などに受容的な注意でありのままに気づいていることである。それでは,感情にありのままに気づくことで生じるマインドフルな状態とはどのような状態なのだろうか。本発表では,マインドフルネス瞑想を構成している集中瞑想や洞察瞑想を実施している際の脳活動や生理指標を概観しながら,ありのままに気づくということや,マインドフルな状態について検討する。
企画趣旨
道端の花を見つけたときの小さな喜びや友人と語り合う夕餉の楽しみといった快感情は人生を豊かにしてくれる。しかしながら,従来,不快感情の多様性に比べて,快感情は単一の存在として扱われることが多かった。ポジティブ心理学の発展はこの潮流を変化させ,快感情にも,様々な強度のものや,自己関連,他者関連,さらには自他の区分を超越したものまで,多様で複雑な感情経験があることを明らかにしてきた。本シンポジウムでは,他者称賛感情としての「尊敬関連感情」や,自己超越感情として「畏敬」,さらには感情経験に気づくことで生じる感情経験としての「マインドフルネス」など様々な快感情を,最新の研究も踏まえながら紹介する。その上で,指定討論では,ポジティブ心理学で中心的な役割を担ってきた感情経験について再考するとともに,多様性の先に見据えるべきものについて議論することで,本邦でポジティブ心理学研究を発展させる契機としたい。
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2月の研究会に参加するために予定で,日程を調整いただいていた方々もいらっしゃるかと思います。十分な連絡ができずに申し訳ございませんでした。研究会のメーリンクリストを整備するなどして,研究会の情報をお送りできるようにいたします。何卒宜しくお願い致します。
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